ベンチャーに限らず、あらゆる企業が四六時中忘れてならないのが顧客満足度(CS)の向上である。
最近は、どの企業も競争激化堪えぬくため価格引き下げに目を奪われがちだが、CSをおろそかにすると墓穴を掘ることになる。
顧客が真に求めているものを探り続ける姿勢が肝心だ。
カレー専門店を全国に670店フランチャイズチェーンを展開している店頭公開企業「壱番屋」は、22年前の創業以来、顧客からのアンケートはがきを最大活用してきた。
来店客にはがきを自宅に持ちかえってもらい、質問に答えて郵送するようお願いしている。
その数、毎日約千百通。
これを宗次徳二会長が2,3時間かけて読むという。
内容は、出店やメニューの追加の希望、サービス・接客態度の感想からクレームまで千差万別。
苦情が出たらすぐに事実関係を調べ、利用客に回答するのはもちろん、顧客の希望があった場所に出店する際にも投函者に連絡する。
従業員が参考にすべき内容は、小冊子にまとめて全店に配っている。
もうひとつ、重視しているのが従業員教育だ。
「ニコニコ、ハキハキ」をモットーに、接客作法を木目細かく仕込む。
新人には1ヶ月間、先輩が付きっ切りで教えるという。
清掃の徹底も重要なCS策。
店から500メートル先まで1日に何回も掃除する。
「すぐに効果が出るわけではないが、地域に溶け込み、信用を得るには最善の方法」と宗次直美社長は語る。
木造住宅用のプレカット部材を住宅販売会社へ向け加工・販売しているシー・エス・ランバーは、社名にCSを掲げ、全社的に取り組んでいる。
かつて、木材販売業を営んでいた同社がプレカット業に転換したのは「住宅会社が、施工が簡単で売りやすい建物を望むようになったため」だった。
近く、外壁材のプレカットも始め、さらにコストダウンに協力する。
また、住宅会社が建築現場から出る端材の処分に頭を抱えていることから、自社に焼却炉を設けて端材の引き取りも始める。
住宅会社向けのサービス強化策はほかにもある。
現場での組み上げ作業の請け負いだ。
建築職人の高齢化が進み、高所作業が難しくなってきた。
それを肩代わりする。
自社の社員が施工しやすいように、接続部に金物を使う新部材の生産力拡大にも力を入れている。
CSを徹底するためには、人材の育成も重要。
建築担当者が水道工事や電気工事など1人で3.4種類の仕事がこなせる多能工育成に取り組んでいる。
これによる建築期間短縮で、コストは20%下がるという。
多能工教育は、社員の勤労意欲の向上にもつながる。
CS戦略を支えるのは従業員。
高い意欲をもって、木目細やかなサービスを心がける人材をどれだけ育てられるかで勝負が決まる。
このためには、経営者自身が頻繁に顧客と接触し、人材育成のあり方を考え続けなければならないのではないか。
一番屋のケースでは、はがきによる顧客の声を吸い上げ、これを経営の意思決定に役立てる仕組み作りを行っていること。
そして投函者に回答を送っていることも重要である。
顧客の期待や要望を基準にした経営が行われている、すなわちEFQMのクライテリアでいえば#5のプロセスマネジメント、その結果を示す#6の顧客関係の結果に関係してくる。
従業員教育もその戦略実現に向けて行われているのであるから、クライテリア#3の人材に関係してくるはずである。
道路の掃除により地域に溶け込む努力はクライテリア#8の社会的成果につながるところである。
シーエス・ランバーでは、顧客が抱える問題を徹底的にビジネスチャンスとして転化してしまっている。
これも顧客の潜在的な要望を基準にした経営、プロセスマネジメントの実践である。
多能工育成が作業効率向上によるコストダウンとともに、社員のモチベーションを向上させるものとなっていることは、EFQMのクライテリア#9の事業成果と#3の人材の要求事項を満たす事例として考えられよう。
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