エクセレンス・モデルというと、かならずといって良いほどはじめにありきなのが、ビジョンである。日本経営品質賞を受賞した同社の経営ビジョンは1999年に作られた「VISION-e」がそれである。『ネットワーク社会をリードし、新しい価値の創造を通じて、人と地球に豊かさと潤いをもたらす、熱意あふれるプロフェッショナル集団』といいうことであり、その実現には、お客様中心、グローバリゼーション、機敏さと活力、を挙げている。
「お客様中心」というのは、昨今増えているお客様のITそのものを全部請け負うようなアウトソーシングでは、お客様の中に入って一緒にお客様の経営を育てなければならないということである。ふたつめの「グローバリゼーション」を掲げたのは、IBMはグローバルカンパニーであり、164カ国でビジネスをしているのだから、語学力やイエス・ノーを明確にして議論する思考方法など、グローバリゼーションを考えたコミュニケーションが必要になるということである。そして「機敏さと活力」では、勝ち組と負け組とだ業種ごとではなく、業種の中で明確に分かれてきているから、同じことをするにもスピードが重要になるということである。それが競争力を高める成功要因になるのである。
このビジョンを踏まえて、事業部長方針が策定されるのだが、当然のことながら毎年経営ビジョンをもとに社長が出した社長方針を受けて作られる。昨年は「機敏で活力ある行動により、e-ビジネスによるお客様価値の創造を推進し、情報産業をリードする」だった。ビジョンがあり、社長方針を受け、次に事業部長方針に降ろす、いわゆる方針の展開である。昨年のゼネラルビジネス事業部では「機敏で活力ある行動により、e-ビジネスによるお客様価値の創造を推進し、業界を上回る成長と生産性の向上を目指す」であった。社長方針と似ているが、事業部ごとに特徴が少しずつ入って来る。
その事業部長方針等の実現に向けて実践されるリーダーシップ発揮の仕組みであるが、同社では伝統的な「キックオフミーティング」がある。四半期が終わった翌月に、終わった四半期の評価と次の四半期の方向性を今年の方針に則り、全社員を集めて話をしている。
毎月には「事業部長会議」を開き、戦略の共有と事業成果についてのミーティングを行ない、3ヶ月に1回は英語でミーティングをする。それ以外にも事業部単位に事業計画を担当する「事業計画会議」、各地域の担当者が集まって情報交換することによりコミュニケーションや組織の活性化に有効な「東西交流会議」「部長会」などを開催している。
事業部長自身も、同期入社社員を10から15名程度集めて戦略を徹底的に共有する場である「マネジメント・ダイアログ」を、ほとんど毎週のペースで行なっている。こうして戦略の統一性を図っているが、それらを集大成させWEB上に「ゼネラル・ビジネス事業部掲示板」を作った。同時にビジネスパートナーに対しても「トップマネジメントとの戦略の共有と対話」を心がけている。単にIBMの製品・サービスを代理店として扱うだけでなく、お互いのビジネスプロセスをどう作り込んでいくかが非常に重要になる。加えて、短期的な営業方針を語る場である「ソリューションプロバイダー責任者会議」と、IBM出向者の目から見たパートナーのあり方についての考え方を論ずる「出向営業管理者会議」を開催している。
すでにお気づきのように、以上のリーダーシップ発揮の仕組みは、概ねコミュニケーションの機会創造と、そこで行なわれるであろうコーチングや学習なのであることが重要なポイントだと考えられる。ビジョンを示し、それを組織に浸透させ、その展開目標を策定し実践を通じて組織の目標を達成する、このシナリオが経営品質のクオリティージャーニーの事はじめなのである。EFQMクライテリア#1と2の参考にしたいところだ。
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