名古屋に美味いものなし、と言う人がいる。美味いまずいというのは、はなはだ主観的なものだし個人の好みもあるので、 「ない」と断定するのは考えものだが、寿司を名古屋ではじめて食べたとき、東京の味と比較して、こうまで違うのはなぜかと思ったことがある。
新潮文庫「名古屋学」を書いている岩中祥文氏は、多くの方から「きしめん」の美味しい店を教えてほしいとよく聞かれるらしい。
高校を卒業してから名古屋で暮らしていない同氏には難しい質問のようで、それでも名古屋に帰るたびに、美味しいとされている「きしめん」屋に
いちおう足を運んでいるが、残念ながらこれまで一度も、心から美味しいと思える「きしめん」には出くわしたことがなく、そこでいつも「JR名古屋駅
のホームにある立ち食いの店が美味しいですよ」と答えることにしている。
これは正直な感想であるという。
だいたい、「きしめん」などというごく大衆的な食べ物をグルメ的に追求しても始まらないという気がするのだが、それでも、世の中には心底からおいしいものを
食べないと納得できない人というのがいるのである。
この「きしめん」の話を読んで、最近脚光を浴びているバランススコアカード(BSC)を連想してしまった。
平べったい印象がBSCの表と重ね合ってくるし、いろいろある経営管理手法を単純化しようとしたBSCの機能を寄って集って高尚な経営戦略実現手法に
祭り上げてしまうというのは、大衆食べ物「きしめん」をグルメ攻めで囲ってしまおうというのと、どこか似ている匂いがする。
経営品質のアプローチのひとつを表す言葉として、KISS(Keep it simple, stupid!)がある。このKISSはBSCの導入にも当てはまるのではないか。
余談ではあるが、名古屋は日本そのものの縮図というかコピーである、と岩中氏は述べているのは興味深い。
名古屋を批判することは即、国際社会における自分たち日本のビジネスのやり方を批判しているのと同じなのであるという。
詳しくは同書を一読願いたい。
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